|
ぴかぴかと磨き上げられたフローリングが事務所スペースまで続く玄関。大理石の棚には、しりあがりファンにはお馴染みの"池美荘"のミニチュア模型がお出迎えだ。6畳1間に、万年床。壊れた炬燵の上には、暖をとるためのホットプレート。読みかけの本やCDが、ごちゃごちゃと床を占拠して。そんな昭和の下宿を彷彿とさせる光景は、氏自身が学生時代を過ごした伝説のアパートそのものだ。「世の中って、何がいいとかわからない。混沌としてぐずぐずしたものではないかと。何かを生み出すのに"池美荘"のようなぐずぐずな場所が合っていて。そんなぐずぐずしたものを、ぐずぐずのまま取り出しているのが、僕のものづくりの源かな(笑)」
へたうま絵で一世風靡した湯村輝彦に憧れ、横尾忠則やダリに影響を受けたという多摩美時代のしりあがりさんは、「周りが就職活動に躍起になっていた頃も、ゆるゆる漫画を描いていて。ある日就職課に行ったら、掲示板にキリンビールの求人を見つけて…」結果的に1番早く大手企業に内定を決めた強運の持ち主。「ぼーっとしていると、船がきて、乗る。陸にあがって、ぼーっとしていると、又別の船が来る。いつもそんな風なんです」と笑う。しかし、その運命の扉であった就職課へ入るタイミングが、一緒に居合わせた友達よりも1歩早かったことが現在に繋がっていたのだとも。そんな、しぜんで脱力したしりあがり流スタイルは、いざという時の瞬発力を蓄えていたのかも知れない。
新商品の宣伝やパッケージ制作を担当するサラリーマン&漫画家という2足のワラジを履き続けた13年間の生活から、漫画家1本の生活に絞ったきっかけは?「周りは本当に優秀な人ばかり。だんだん上の人から偉くなっていった頃。そのうち部下がどんどん増えるだろうなあと。でも僕には部下の人生に責任もつ事はできない(笑)どうも摩擦がきらいで」と独立。現在の摩擦のない生活を手に入れたのだ。ちなみに、昔の先輩や同僚たちとは現在も付き合いがあり、キリンビールの社内報にも漫画を提供している。複数のPCが繋がる整然とした印象の事務所には、しりあがりさんを慕う若いクリエーター達が入れ替わり立ち代わり集まる。「僕、コンピューター、苦手なんです。突然向こうから勝手にコミュニケーションをとらなくなるでしょ(笑)なので、デジタル的な作業は殆どスタッフまかせです」
華々しい世界で仕事をするなか、よくも悪くも世の中で受けるものに醒めてしまったのだとも。「今って、スピードが大切な時代でしょ。感動まで1分以上かかったらダメとか。でもそこからこぼれるものがある」とゆっくりと丁寧に語ってくれるしりあがりさんは、布団を敷きっぱなしの万年床で家族4人仲良く寝ている"自宅の6畳間"がいちばん心安らぐ空間だという。横浜の1軒屋から、渋谷の事務所マンションへ通い、月30本もの連載をこなす多忙な日々の中で、世の中のスピードから"こぼれて"しまった得体の知れない何かを作品に込め続けている。そして驚いたことに、この事務所マンションの中にも、"池美荘"が開かずの間のように存在しているという。
■ プロフィール
しりあがり寿(Kotobuki Shiriagari)
1958年静岡県生まれ。多摩美術大学(グラフィック専攻)卒業後、キリンビールに入社。サラリーマンと漫画家という2足のワラジを履きながら、作品を発表し続ける。1994年に会社を退職し、専業漫画家となる。2000年『時事おやじ2000』(アスペクト)、『ゆるゆるオヤジ』(文芸春秋)にて、第46回文芸春秋賞を受賞。2001年『弥次喜多 in DEEP』(エンターブレイン)で、第5回手塚治虫「マンガ優秀賞」を受賞。2004年原作『真夜中の弥次さん喜多さん』が映画化。
◆間取り/広さ:50u
◆利用人数:1〜25人
◆好きな色:緑
◆好きな有名人:ナイショ
◆好きな本・音楽・映画:ティム・バートン、テリー・ギリアム
◆趣味:テレビゲーム
◆生活空間でこだわっていること:ほどよくキタナイ
●TOPICS:最近は映像分野にも進出!
【@nifty NeoM rePublic】にて配信中。
しりあがり寿企画・原案・監督「寸志でございます 電送オヤジ」
http://neom.cocolog-nifty.com/republic/cat5139594/
●しりあがり寿オフィシャルホームページ
「おーい!さるやまハゲの助」
http://www.saruhage.com/
|