|
特集で紹介したレンタルスペース「ダブルハピネスギャラリー」隣にあるもう一つの扉を開けると、オーナー小野田次郎さんのプライベート空間が存在している。ここを借りたのは「ダブルハピネスギャラリー」を作り始めて一年が過ぎたころ。当初は借り手も少なく、バックパックとベッドを隠せばすぐに気軽に貸すことのできる自分の生活空間でもあったのだ。偶然にも隣に空き室が出たので、本格的にレンタルスペースを稼動させるため入居を決めた。
コンクリート色の壁一面に貼られたアースカラーのタペストリー、天井からは仄かな黄光を灯す中華風の行灯、真っ赤なソファ、ウクレレ、切り出しの木色が艶やかな重厚なカウンターテーブル。ベランダからは同じ木材が斜方に室内の途中まで続く床、あとはもともとのパンチカーペットを剥がしてむき出しにしたコンクリートで、土足OK。
足を踏み入れた瞬間、ダブルハピネスギャラリーやレンタルショールームaoyama401とは全く異なる色やモノが目に次々と飛び込んできた。「隣室のギャラリーはシンプルにしておかなければならないので、そこでやれないことをやりたくて。友人の作品であるタペストリーの色彩が気に入ったので、これに合わせていくとこうなりました。一からこの部屋をこんなコンセプトで作りました、というのとはちょっと違う。なんとなく、成り行きですね」と小野田さんは少し恥ずかしそうに答えてくれた。実は冷蔵庫やここに飾ってある多くは、お客さんがこの部屋に合うだろうと持ってきてくれたもの。
カウンターテーブルは生木を代々木公園でやっていた木材市で購入。買ってきたから作るしかない、とやすりをかけてワックスをかけてどんどんかっこよくなってきて、さて、次はどうしよう、みたいな感じで。一ヶ月ほどかかり泣きながら(笑)なんとか自己流で完成させたそうだ。隣のビルが近接して空ける必要のない窓には、内側からベニヤ板を張って壁を作り、そこを抜いて新たな小窓を作る。天井には間接照明を取り付け、スピーカーも埋め込んだ。
賃貸でありながら、こうも自由にアレンジができるのは、壊すのではなく内側にくっつけるという発想で作っているから。例えば、壁もコンクリートっぽく見せているが、もともとついていた壁紙の上に、塗料を塗っているので、返す日が来ればその壁紙をそのまま剥がして張り替えればいいだけ。これらの作業は、決して安さのためだけではなかった。レンタルスペースについては、「お客様のために必要なものにお金をかけないのは失礼です。たまたま作れものはつくるだけ。」ときっぱり。
しかし、どうしてこれだけのことができるのかを探ってみると、こんな答えが返ってきた。「都会の便利さに恵まれていたからではないでしょうか。僕はもともと生まれも育ちも渋谷なんです。電球ひとつでも、東急ハンズに自転車に乗って買いに行き、20分後には取り付けられる環境、思いついたらすぐそのペンキの色がぬれる感覚なんです。」小野田さんにとっては、子供の頃からモノを作るのが好きで、モノを作っている時間が長かったから。今のような仕事をやろうと思って勉強したわけではなく、自然自然に身についただけ。
隣室のギャラリーでイベントがあるときなどはオープニングパーティで開放し、小野田さん自身がフードを作ることも。カウンター越しのキッチンに並ぶ調理器具や調味料、グラスなどはそのためだった。でも小野田さんは笑顔で「ここはあくまでおまけみたいに楽しんでもらいたい空間なんですよ」と繰り返した。
肩の力を抜いてなりゆきにまかせてみるとはどういうことなのかを小野田さんは見せてくれた。
|