料亭新橋「松山」の床の間
水澤工務店が施工を手掛けた高級料亭・新橋「松山」には、すべてのお部屋に床の間がしつらえてあります。どのようにしつらえられたのか、設計者の板垣元彬先生にお話をお伺い致しました。
板垣 元彬
有限会社板垣元彬建築事務所 代表取締役。
宗教建築、商業施設、一戸建住宅、他の教育文化施設のなどの和風建築の設計、管理に携わる。代表作に「吉屋邸」、「北山山荘」、「田無山総持寺宸殿」などがある。
──「大きな床の間から小さな床の間まで、その部屋の大きさと性格に合わせて、床の間の形を考えています。
一階にある二つの座敷は、共に長押(なげし)をまわしています。広間は角柱と角の長押です。もう一方の座敷は面皮の柱に丸太の長押です。その他の部分でも表現は変えてありますが、柱と長押の形状の違いで座敷の雰囲気はずい分違ってくるものです」
一階に料亭で一番大きい広間の床の間。あらたまった会合などにも相応しくなるよう、格のある雰囲気にするため、床の間も広くとり、柱は面取角柱。(マウスオーバーで画像が切り替わります)
床脇の空間と連続性を持たせてしつらえられた床の間。右手からは中庭が見え、部屋全体に空間の広がりを感じさせる。(マウスオーバーで画像が切り替わります)
──「二階には二つの座敷がありますが、一つは残月の床の間をイメージして、このような形にしました。一階の座敷とは大分雰囲気を変えています。床框のない踏込床ですから、座敷との一体感は強くなると思います」
──「その隣の部屋は、この料亭で一番小さい座敷です。くつろいだ雰囲気で過ごしてもらえるようにやわらかい表現を目指しました。丸太を多用したのもその為と云っても良いでしょう」
──「私は、余り真行草は意識していませんが、強いていえば一階の部屋は"真"で、残月のお部屋は"行"。一番小さな部屋は"草"に近い形ですね」
玄関脇にある茶室にある床の間。奥行きを深くとった洞床で空間と落ち着きを感じさせる。
──どうして日本人は床の間を作ったのでしょうか?
「どうしてでしょうね。面白いですね。日本人の空間に対する独特の感性の現れではないでしょうか?おそらく一つの美術品に固有の空間や場を与える事で、そこに新しい美的な効果が生じることに気がついたからではないでしょうか?」
──先生が床の間を作る上で大切にされていることは何ですか?
「床の間が部屋全体に効果的な空間であるようにしています」
──最近は、床柱や落とし掛けのない床の間もありますが
「床の間というのは、座敷にものを飾る。あるいはそれを鑑賞する。お客様に見せる。そういう機能がこのような一つの場所として出来上がったわけです。だから例えば床柱がなくても落とし掛けがなくても、床の間としての機能が果たされていれば、それは床の間だと思いますよ」
──では、床の間と飾り棚の境界線は?
「ないと思います。難しい問題ですが、使い方じゃないでしょうか。
ですからその部屋でしかるべき位置に、絵画なり軸なり、人の視線を受け止めてくれるような物があれば、それはもう床の間の一番初歩的な段階ではないでしょうか?
例えば純粋な和室ではなく、和洋折衷の部屋に、軸をかけたり、花を生けたりする場所があったとした場合、それを飾り棚と呼ぶか床の間と呼ぶかと言われれば、そこで床の間的な飾り付けをしているか否かによって、床の間と呼ばれたり単なる飾り棚と呼ばれたりするのではないかと思います」




